「新しい英語力の教室」書評
“英語ができる”の呪いを解く、自分だけの学習法デザイン術
基本情報
著者 | 田中 慶子 |
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出版社 | インプレス |
出版年 | 2022年 |
ページ数 | 256ページ |
著者について
著者の田中慶子氏は、20年以上のキャリアを持つ現役の同時通訳者。天皇皇后両陛下、ダライ・ラマ、ビル・ゲイツ、テイラー・スウィフトといった世界のトップリーダーや著名人の通訳を務めてきた、まさに「言葉のプロ」。しかし、本書で彼女が示すのは、単なる通訳の技術ではありません。コロンビア大学でコーチングを、慶應義塾大学大学院でデザイン思考を学び、それらを英語学習法に融合させた独自のメソッドを確立。非ネイティブとして英語を習得した経験を持つからこそ、日本の学習者が抱える悩みに深く寄り添います。
本の概要
本書は「使える英語」を身につけるための、単なるテクニック集ではありません。むしろ、自分に合った学習プランを自分で設計するための「思考のOS」をインストールしてくれる一冊です。なぜ多くの人が英語学習に挫折するのか? TOEICのスコアは高いのになぜ話せないのか? そんな根本的な問いに対し、コーチングとデザイン思考の観点から、具体的かつ実践的な答えを示してくれます。全6章を通じて、読者は「英語を使って何をしたいのか」という目的設定から始め、自分だけの学習計画を立てるワークに導かれます。
特に印象に残った3つの点
1. 「英語ができる」の定義をひっくり返す
具体的内容:多くの人が目指す「ネイティブのように完璧な英語」という幻想を、本書は一刀両断します。著者が提唱するのは、「英語を使いながら、自分の足りないところに気づき、学び続ける。この循環がある状態」こそが「英語ができる」ということだ、という新しい定義です。
印象に残った理由:この言葉は、完璧主義の呪縛に苦しむ多くの学習者にとって、まさに福音です。「できない」ことに焦点を当てるのではなく、「学び続けている」プロセスそのものを肯定してくれるため、心が軽くなり、前向きな一歩を踏み出す勇気をもらえます。
2. やる気に頼らない「学習の仕組み化」
具体的内容:「英語の勉強が続かないのは意志が弱いからだ」という自己批判を、本書は否定します。問題はやる気ではなく「仕組み」にあるとし、既存の生活習慣に英語学習を組み込む具体的な方法を提案します。
印象に残った理由:これは英語学習に留まらない、普遍的な目標達成の技術だと感じました。「頑張る」のではなく「淡々とこなす」ための環境をデザインするという発想は、忙しい現代人にとって非常に現実的かつ効果的なアプローチです。
3. 同時通訳者の思考プロセスが面白い
具体的内容:日本人スピーカーが言った「タコツボでヌクヌクしていてはいけない」を、とっさに “cocoon(マユ玉)” と訳したエピソードなど、現場の思考プロセスが赤裸々に語られます。単語の直訳ではなく、背景にある文化や文脈を理解し、相手に伝わる言葉を「創造」する技術が紹介されます。
印象に残った理由:英語が単なる記号の変換ではなく、深い思考と洞察を伴うコミュニケーションツールであることを実感させられます。こうしたプロの思考に触れることで、自分の英語学習が目指すべき地平がぐっと広がりました。
評価
改善点
非常に優れた一冊ですが、あえて挙げるとすれば…
こんな人におすすめ
総合レビュー
本書は、巷にあふれる「魔法の英語学習法」とは一線を画す、学習者一人ひとりが自らのコーチ兼デザイナーになるための指南書です。
英語を「学ぶ」対象から「使う」ための道具へと視点を変えさせ、完璧主義のプレッシャーから解放してくれます。もしあなたが今、英語学習の壁にぶつかっているのなら、本書はあなたの足元を照らし、次の一歩を踏み出すための確かな地図となってくれるでしょう。